高橋 亜矢子(ウェルビー株式会社 就労移行支援事業部 支援開発係 支援開発チーム)
杉山 明子(ウェルビー株式会社 就労移行支援事業部 ウェルビー北千住駅前センター)
※スタッフの概要は、学会発表時の情報です
当社は平成29年7月1日現在、全国に52センターの就労移行支援事業所(以下就労移行)を有し、障害者に対する施設内プログラムを中心とする訓練と就職活動支援、職場定着支援を提供している。特に職場定着支援に関しては平成27年よりサポート期限を定めず、本人、企業、地域のニーズに応じて支援を継続した結果、平成29年4月時点で6カ月定着率は83.1%(平成28年9月までの就職者累計809名)となった。
当社就労移行に在籍する利用者の属性として、精神疾患の診断を持つ方が6割を超える現状があり、発達障害の診断も含め精神保健福祉手帳の所持者が主な支援対象となっている。
障害者雇用率の算定基礎に精神障害者が追加される平成30年を迎えるにあたり、企業支援ニーズの高まりが予想される。
企業支援の標準的実施方法として、就職前、就職時、就職後(適応)、就職後(定着)とステップの枠組みが示されており1)、これによると職場定着支援は広く企業支援の一環に含まれる。また企業支援の今後の方向として「必ずしもひとつの機関がすべての支援ニーズ対応しなければならないものではなく」「役割と責任の範囲を明確にし、確認しあう」必要性が示されているが1)、これは企業支援に関わる可能性のある支援機関がハローワークを中心にいくつか存在するためである。なかでも就労移行は近年事業所数が増加しており、平成22年3月時点では1890件(国民健康保険団体連合会実績)であった事業所数が、平成28年12月時点で3236件と報告されている2)。
当社就労移行においても、年々、企業との連携ケースが増加し、同時に就労移行への期待と責任の高まりを実感している。こうした状況をうけ、当社では平成28年にそれまで注力してきた職場定着支援の効果について振り返りを行った結果、企業支援に注力する方向性を掲げ実践を行ってきた3)。今年度、改めて就労移行の立場で利用者の就職後の職場定着に有効な企業支援の方針を検討したいと考え、またこれまでの支援効果を検証する目的で本調査を実施した。
平成27年から平成29年7月の間に当社就労移行にて訓練を受けた利用者が障害者雇用枠で就職した事業所のうち官公庁などを除く260社を対象とし、『精神障害者・発達障害者の雇用についてウェルビー株式会社(就労移行支援事業所)のサポートに関するアンケート』として質問紙を送付し調査依頼した(調査期間:平成29年7月)。質問項目は先行研究を参考に、企業のニーズと当社就労移行の活用状況に関する項目とした。また、匿名回答を可能とし、さらに公表にあたり回答した企業名や個人を特定する要素を含まないことを明記した。
79社から回答を得て回収率は30.4%であった。企業規模については従業員299人以下の中小企業が45.6%、300人以上の大企業が54.4%と規模の偏りなく回答が得られた。当事者の職種については回答事業所の69.6%と約7割が事務職と回答した。79社のうち6社が特例子会社であった。
回答企業中、96.2%が障害者雇用に関して何らかの取り組みを実施していた。実施内容について回答が多かった項目順に職場実習を行っている、助成金・奨励金を活用、産業医・保健師・産業カウンセラーの配置となり、実施割合は40%超であった。一方、仕事以外の(生活等)相談を行う担当者の選任、企業内ジョブコーチによる支援の実施、を行っている企業は1割程度であった(図1)。雇用段階の企業全体の取り組みについては実施割合が高い一方で、当事者の職務遂行の課題など現場で生じるニーズを満たす取り組みに関して実施割合は高くないことが読み取れた。
図1 企業の取り組み内容
採用やともに働く場面での課題や心配があると回答した企業は75社であり、多かった項目順に、安定した勤怠が保てるか不安(50.7%)、適切な指導が分からない(42.7%)、コミュニケーション面で不安がある(40.0%)となった(図2)。項目の特徴として、企業の中でも特に現場従業員の課題感につながる項目と読み取れた。
図2 企業が感じている課題
当社が提供した主な支援内容8項目中、支援を受けたと回答した企業の割合が多かった4項目(企業訪問による相談援助、情報提供、採用面接時の支援者同席、当事者に対する健康管理や日常生活管理の支援)について、満足もしくはおおむね満足との回答割合が80%を超えた。一方で支援を受けたと回答した企業が少ない項目(医療機関との橋渡し、家族との橋渡し、ジョブコーチ等活用の提案)について、その割合が減少する傾向となった。これらはいずれも就労後の関係者間の連携に関わる項目であった。
受けたいサポートについて自由記述で質問したところ、当事者に関する情報提供、障害特性等に関する従業員研修、就職後の本人支援の充実に関する要望が複数寄せられた。また少数ではあるが、通所時期の支援を強化し、就労までに課題を克服しておいてほしいとの要望も見られた。
当社が支援介入した企業の傾向として、雇用段階において既存の制度(奨励金など)を活用しながら受け入れ体制を整えつつある現状が示された。その一方で、就職後の定着段階において現場で生じるニーズを満たす取り組みについては、企業が主体となって実施している割合が低いことが挙げられた。この傾向は企業が感じる課題および、企業が当社に望む支援の回答内容にも反映されており、現場で当事者を支えているであろう現場従業員が課題感を持ち、支援を求めている構図の表れとも考えられる。
また当社の企業支援の実績について、これまで提供してきた支援に一定の満足感は得られていたが、今後の課題も明らかになった。就労移行の利用期間中は比較的ゆとりをもって関係者間のコーディネートが可能であり、医療同行、家族を含めたケース会議などを実施しやすい。しかし就職後の定着段階においてこそ、より自覚的に企業を含めた支援の輪を構築していくことが求められている。同時に必要に応じて他の支援機関と連携し、活用しやすい形で提案していくことも大切であり、職場定着支援に対する企業の満足感に繋がっていくことが予想される。
さらに改めて当社就労移行の立場から、職場定着に有効な企業支援の方向性を考えた。
就労移行は利用者個人を軸に支援を行っている。そのため企業支援を主業務とする就労支援機関が企業を軸に介入する場面と比較して、利用者のニーズをきっかけに企業とのコンタクトが発生しやすい。就職前のアプローチとして見学や実習を提案するが、精神障害者を募集・採用する際に関係機関を利用したり、協力を求めたことのある事業所は全体の17.7%という報告もあり4)、多くの企業が就労支援機関の役割を認知していない状態でのアプローチとなる。見学・実習を含む適切なマッチング(適応指導)は精神障害者の就労定着要因であるため5)、充分に有効性を示し、実現していくことが求められている。
一方、当事者の訓練場面と就業場面を直接・継続的に支援する立場にある就労移行は、一般的な障害特性を個人の特性と結びつけ、現場で求められる指導方法・コミュニケーションに関する情報に落としこんで提供することに適した立場にあるといえる。
本考察は従来の就労支援機関の課題に沿うものではあるが、就労移行として改めて必要な支援について焦点化できた。当社では現在、段階に応じた企業への介入、就労後の関係者連携のための方法などを順次試行している。今後も個別のケースに対し着実な介入を行い、職場定着に有効な企業との関わり方を実践・蓄積していきたい。
調査の実施に当たり、調査趣旨を汲んで忌憚のないご意見をお寄せくださった企業の皆様へ厚く御礼申し上げます。
1) 障害者職業総合センター:障害者雇用に係る事業主支援の標準的な実施方法に関する研究(2012)
2) 厚生労働省:障害者就労支援施策の動向について(2017)
3) ウェルビー株式会社:就労移行支援事業所における職場定着支援の介入および課題についての調査・実践報告(2016)
4) 厚生労働省:障害者雇用実態調査(2013)
5) 障害者職業総合センター:障害者の職場定着及び支援の状況に関する研究(2014)