企業は精神障害者・発達障害者を歓迎している?

2017年研究実践発表 ①精神障害者・発達障害者について就労移行支援事業所が行なう企業支援の試み・調査発表

『企業は精神障害者・発達障害者を歓迎している?』 採用担当者の本音を調査しました

精神障害のある方は、一般の労働者に比べて早期に退職してしまうケースが多いといわれています。一番の原因は症状の悪化ではなく、『職場の雰囲気・人間関係』です。2018年、民間企業へ精神障害者の雇用義務が明示されたことで企業の採用活動は進んでいます。せっかく入社した職場で気持ちよく働いていくためには? ウェルビーの実践を紹介します。

せっかく入社しても辞めたくなるのはなぜ?

ウェルビーに通う方の約半数は、過去に企業で働いた経験があります。障害を開示していた方もいれば一般求人枠で働いていた方もおり経緯はさまざま。それでも皆様に退職した経緯を聞くと、似た答えが返ってきます。「企業が障害を理解してくれなかった」ということです。

厚生労働省「障害者雇用実態調査(2013)」によると、精神障害者の離職理由の1位は個人的理由(56.5%)、2位が会社都合(16.0%)、3位が定年・契約満了(9.9%)です。辞めた方の多くは自分から退職を申し出ていることが分かります。その理由として一番にあがっているのは“職場の雰囲気・人間関係”です。

精神障害者の離職理由(個人的理由の内訳)

1位 職場の雰囲気・人間関係
2位 賃金・労働条件に不満
3位 疲れやすく体力意欲が続かない

 4位 仕事内容が合わない、向かない
 5位 作業・能率面で適応できず
 6位 症状の悪化

厚生労働省 平成25年度障害者雇用実態調査より抜粋

「障害者だから辞めさせられるのではないか」と心配する方がいますが、障害を理由に企業に解雇されることはありません。『同僚や上司の理解と協力を得られず続けるのが苦しかった』『退職せざるを得ない雰囲気になってしまった』というのが実態です。

よりよく働いていくため同僚や上司に障害を開示したはずなのに、過剰に気を使われてしまった、または配慮なく仕事を振られてしまった――こうした経験が積み重なると、同僚・上司への期待が薄れていくのも仕方ないことです。精神障害者の職場定着率は身体・知的障害者に比べて低いといわれていますが、その背景には症状の悪化とは別の原因があることが分かります。

就職のための選択肢は広がったけど…

「障害者雇用」というワードがニュースで取り上げられるようになってきたのは最近のことです。精神障害者保健福祉手帳を持つ方については2006年から企業の障害者法定雇用率の対象となり、2018年には雇用義務が明示されました。そのため近年特に精神・発達障害のある方を積極的に採用する方針の企業が増えています。
障害を開示して働くいわゆるオープン就労の選択肢が広がり、就職件数も毎年過去最高を更新しています。ウェルビーのような福祉サービス(就労移行)を使って就職をめざすルートも拡大しています。

しかし就職はスタートです。せっかく働き始めた職場で障害による制限に悩まず、よりよく働き続けられることこそが理想です。
そこでウェルビーでは企業側の事情を知るため、ウェルビーOBが就職した企業へ調査を行いました。

働きたい障害者のための障害者雇用制度とは?

日本には企業に対して障害者の雇用を義務化する法律があります。これは障害があり働きたいと希望する方が当たり前に働ける社会の実現のため定められたものです。  
企業の全従業員のうち障害のある方の割合を障害者雇用率といいます。平成30年4月、企業に定められた障害者雇用率は2.0%から2.2%に引き上げられます。たとえば従業員1000人の企業なら障害のある方を22人以上雇用するように努力する義務があります。

企業は障害者雇用をどう考えているの?

まず障害者雇用に関して何らかの取り組みを行なっている企業の割合ですが、全体の96.2%という結果でした。ほとんどの企業が障害者雇用に関心を寄せていることが分かります。

障害者雇用に関する取り組みを行なっていますか?

企業の人たちの本音は?

では企業の取り組みさえ充実していれば、職場の雰囲気・人間関係が良くなり、企業に障害を理解してもらえるか? そうではありません。企業が取り組みをしなくても働きやすい職場が実現されるケースは多くありますし、逆のケースもあります。ポイントはともに働く上司・同僚との関係性です。

担当者に向けて「精神・発達障害のある方を採用する、またはともに働く場面で課題を感じたことはあるか?」聞いてみたところ、94.9%があると回答しました。

障害者雇用に関する取り組みを行なっていますか?

回答が多かった内容順に「安定した勤怠が保てるか不安」、「適切な指導が分からない」、「コミュニケーション面で不安がある」という結果になりました。とくに入社後に一緒に働く場面についての疑問が上位にあがっています。『体調の波によって欠勤してしまうのでは?』『分かりやすい仕事の教え方はあるのか?』『障害のことを聞くと負担になってしまうのでは?』こうした声がよく聞かれます。企業のなかで働く人たちも、率直な疑問や課題を感じていることが分かります。

背景として、精神・発達障害のある方は見た目から診断や症状が分かりにくいことが挙げられます。たとえ診断名を知っていても、相手が本当は何に大変さを感じているのか理解するには時間が必要です。さらにいえば何に困っているかは知っていても、どうしたら仕事がしやすいのか、これまで知識を持たなかった一般の人にとっては想像がつきにくいことです。

障害のある方と企業のギャップを埋めることが大切

『企業は障害を理解してくれなかった』―― これは当事者の方にとって事実でしょう。しかしよく話を聞いて振り返ると、上司・同僚との間に捉え方のギャップがあることが分かります。

上司・同僚の立場に立つと、障害のある方が入社してきたとき『どんな仕事ができるか分からないし、どんな配慮が必要か知らない』ことが当たり前です。このままでは過剰に気を使いすぎたり、または繁忙期の仕事量を基準にして仕事を振ってしまったりということが起こります。こうして負担が積み重なると、互いが不満を抱えやすい状況になってしまいます。

障害のある方も、そのまわりの上司・同僚も、目的は企業の一員として役割を果たし生産性を高めていくことです。そのためにはどんな配慮が有効か、互いに調整する機会が必要です。

そこでウェルビーでは企業への働きかけを行なっています。障害のある方が働く背景、個人個人異なる症状や制限、どういう配慮をすれば働きやすくなるかについてまずは企業側に知ってもらいます。ウェルビーで訓練を受けて就職するOBたちと企業とのギャップを埋めることが狙いです。

企業へのサポートが障害のある方の後押しにつながる

ウェルビーが行なっている職場定着支援も、企業への働きかけのひとつです。職場定着支援とはウェルビーで訓練をうけて就職したOBの方へ、入社後もサポートを継続することです。企業訪問による三者面談や、電話やウェルビーでの面談などを主に、時期に応じて必要なサポートを提供しています。障害のあ方にとっては入社直後の不安な時期に仕事や体調管理について率直に相談できるメリットがあります。

しかし『OBにとってはプラスだけど、本当に企業に受け入れられるのか?』と疑問に感じる方もいるでしょう。 実際にウェルビーがOBのサポートに入った企業に満足度を尋ねたところ、「企業訪問による相談支援」、「採用面接時の支援者同席」「情報提供(障害状況、配慮事項、職業能力等)」「本人の健康管理や日常生活管理の支援」について、満足の割合が8割を超えています。担当者の方々からも応援の声をいただいており、企業も障害のある方について積極的に情報を得ること、サポートの介入を歓迎していることが分かります。

企業はサポートありの就職を歓迎しています

職場以外での悩みを抱えている場合、職場での支援が難しく、定着支援の際にそうした視点を持って当事者のフォローをしてくださると助かります。

報告をきちんとできるようになる…などご本人のコミュニケーション力を高めるサポートを期待します。

ご本人を取り巻く関係者間の橋渡し役をお願いできればと思います。

サポートが入ることで、企業側は障害のある方の個別に異なる背景を知り、どうすれば働きやすくなるのか考えることができます。捉え方のギャップが埋まり、上司・同僚との共通理解が生まれるのです。こうなれば安心です。いずれはサポートが介入しなくてもお互いの力で自然に仕事を続けていくことができます。

病気や障害に対する社会の見方が変化する時期にさしかかっています。とくに今まで職場に理解を求めることが難しかった精神障害・発達障害のある方が、企業側の配慮のもと仕事で活躍するケースが増えています。その姿には大きなインパクトがあります。いままで障害者に関心のなかった人たちが、多様な働き方を認め応援するきっかけになっています。

本記事の調査結果はウェルビー株式会社2017年研究実践発表 「精神・発達障害者について就労移行支援事業所が行なう企業支援の試み・調査発表」に基づいています。平成27年から平成29年7月の間に当社就労移行にて訓練を受けた利用者が障害者雇用枠で就職した事業所のうち官公庁などを除く260社を対象とし、『精神障害者・発達障害者の雇用についてウェルビー株式会社(就労移行支援事業所)のサポートに関するアンケート』として質問紙にて調査依頼し、79社から回答を得ました(調査期間:2017年7月)。回答企業中従業員299人以下の企業が45.6%、300人以上企業が54.4%と規模の偏りなく回答が得られ、79社のうち6社が特例子会社でした。調査の実施に当たり、調査趣旨を汲んで忌憚のないご意見をお寄せくださった企業の皆様へ厚く御礼申し上げます。

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