
発達障害がある方への合理的配慮とは?
病名別に例をあげて解説
発達障害のある方が円滑に学校や会社で過ごすためには、周囲の理解やサポートが鍵になります。しかし、「もしかしたらわがままに思われるのではないか?」と不安に思い、必要な配慮を求めることをためらってしまう方もいるかもしれません。
本記事では、「合理的配慮」の基本的な知識と、ADHD(注意欠如・多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)など、発達障害ごとの必要なサポートについて具体例を交えながら解説します。この記事を読むことで、発達障害のある方の特徴を理解し、より適切なサポートを受けるための方法例をご紹介いたします。
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- 特性を知ろう
発達障害とは、生まれつきの脳機能の違いに原因があることにより、周囲の人・環境とのミスマッチが生じ、生きづらさや困難を感じる障害です。障害の特徴や種類について、理解してみませんか。
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発達障害のある学生ならではの悩みやよくある困りごとを紹介いたします。
また、障害の特徴や悩みに対しての向き合いかたや解決のヒントについても解説します。
合理的配慮とは
合理的配慮とは、障害のある方が他の人と同じように社会参加できるように、その特徴に応じた支援や調整を行うことを指します。障害者差別解消法によって定められ、2024年4月からは行政機関だけでなく事業者にも義務化されました。「合理的」とは、支援側に過度な負担をかけずに、可能な範囲で障害に起因する困難を解消することを意味します。視力が低い生徒を教室の前方に座らせるなどは、合理的配慮の一例です。
ただし、合理的配慮を求める行為が過度になると、学校や会社に「過重な負担」をかける可能性があります。そのため、合理的配慮を求める際には、双方が納得できる形で話し合い、適切な調整を図ることが重要です。障害の特徴や必要な支援内容を丁寧に伝えることで、本人と支援者が協力して効果的な対応策を見つける姿勢が求められます。

【学校】発達障害のある方への合理的配慮
学校では発達障害のある方に対して、以下のような合理的配慮が期待されます。
読み書きが困難な人の場合
読み書きや計算など、特定の学習分野が極端に苦手な方には、その特徴に合わせた教材や機器を活用し、教え方を工夫してもらうことが有効です。
具体的には、拡大教科書やタブレット端末、音声読み上げソフトなどを活用することで、文字情報や学習内容の理解を助けます。教え方に関しても、漢字なら部位ごとに色分けして伝えたり、漢字の成り立ちから意味を説明したりすることで、学習効果が上がった例もあります。
刺激に敏感な人の場合
発達障害がある方は、光や音などの感覚過敏に悩むことが多く見られます。このような特徴がある方は、なるべく余計な刺激が少ない、過ごしやすい環境を用意してもらえるか確認し、お願いをしてみるとよいでしょう。
例えば、机や椅子の音が気になる場合は、机や椅子の脚に緩衝材を取り付けて雑音を軽減するのが有効です。また、視覚が過敏な場合は、教室のカーテンを閉めたり、黒板周りの掲示物を減らしたりすることで授業へ集中しやすくなります。仕切り机の使用や別室でのテストの実施も効果的です。
曖昧な内容を理解することが苦手な人の場合
曖昧な指示や説明の理解が難しい方には、シンプルで明確な説明を求めてください。
例えば、指示を一度にまとめて出すのではなく、ひとつずつ順序立てて具体的に伝えることが効果的です。また当日の予定などに関しても、カードや表で示してもらうことで、先の見通しが立ちやすくなり、安心感が生まれます。
このような配慮は、話し合いに関しても同様です。ディスカッションの手順や注意点を事前に示してもらうことで、話し合いが苦手な方も議論に参加しやすくなります。
【職場】発達障害のある方への合理的配慮
合理的配慮は事業者にも義務付けられたため、就職活動や就職後の場面でも配慮を求めることが可能です。具体的には、以下のような配慮が挙げられます。
対人でのやり取りに不得意な人の場合
対人コミュニケーションが苦手な場合は、ご自身の特徴を周囲に理解してもらうことが大切です。そのため、指示系統をひとつにまとめたり、なるべく上司の方が変わらないよう依頼することが有効です。また、知らない人とのやり取りが少ない部署や業務への配属を希望し、直接コミュニケーションを取る相手を最低限に絞り込むとよいでしょう。
もし、やり取りする相手によって仕事のパフォーマンスが変わる場合は、その理由を丁寧に説明した上で、上司の変更や部署異動を相談し、指示系統を整理してもらえるかお願いしてみましょう。
健康的な体調維持に課題がある人の場合
発達障害のある方は、障害の特徴や周囲の適応への難しさから、疲れやすかったり、体調を崩しやすかったりすることが少なくありません。無理なく過ごせる環境を作るために、必要な配慮を伝えることが重要です。具体的には、合間に短時間の休憩を取ることや状況に応じて仮眠を取れる環境をお願いするのが効果的です。また、時短勤務や時差通勤など、負担の少ない働き方や通勤方法を選択することも1つの方法です。
こうした要望は伝え方によっては「わがまま」と受け取られかねません。したがって、障害の特徴を丁寧に説明し、これらの配慮が長期的な生産性を維持・向上するために必要であるということを伝えるようにしましょう。
モチベーションを保つのが難しい人の場合
発達障害のある方は、新しい環境や業務への適応に苦労する場合があります。そのため、障害の特徴を周囲に理解してもらうことが必要になります。例えば、「新しい業務に慣れるのには時間がかかるので、すぐに成果を期待しないでほしい」などと、事前に伝えておくことで、過度な期待によるプレッシャーを軽減できます。
また気温差や気圧差など、体調を崩しやすくなる時期や状況を伝えておくことも重要です。さらに、対人コミュニケーションが苦手な場合は、グループでのランチや飲み会には参加が難しいことを説明し、無理に誘わないようにお願いすることで、不要なストレスを減らすことができます。
ASD(自閉スペクトラム症)のある人への合理的配慮の例
発達障害の種類別に必要と考えられる合理的配慮の例をご紹介します。まずはASD(自閉スペクトラム症)の方に対する合理的配慮の例です。
過集中への合理的配慮
ASD(自閉スペクトラム症)の方は、過集中になることが多く、結果的に適切なタイミングで休憩を取れないことが多々あります。こうした傾向がある場合は、休憩時間をアラームで知らせてもらうことや、休憩に入る際に声をかけてもらうよう依頼すると効果的です。
また、定期的な通院が必要な場合は、事前に担任の先生や上司へ報告し、休暇や早退が取りやすい環境を整えることも大切です。さらに、一日に5~10分ほど、気になる点や困りごとを相談できる時間をつくってもらうことで、不安を軽減し、安心して業務に集中しやすくなります。
仕事・作業への合理的配慮
ASD(自閉スペクトラム症)の方は、一度に複数の仕事や作業をこなすのが難しい場合があります。そのため、作業指示に際しては、業務を小分けにしてひとつずつ取り組めるようにしてもらうことが重要です。どうしても1度に複数の業務を割り振る必要がある場合も、業務の優先順位を示してもらうことで、混乱を避けやすくなります。
また、ASD(自閉スペクトラム症)の方は口頭での説明より、表や図などを利用して視覚的に説明された方が理解しやすい傾向にあります。マニュアルに関しても、絵や写真などを利用して視覚情報を増やしてもらうことで、スムーズな作業遂行が可能です。
学習への合理的配慮
学習に関しても、視覚的な情報を活用した支援が効果的です。学習活動の順序を示す活動予定表を用意してもらい、次に何をしたらいいかが一目で分かるようにすることで、安心して取り組めます。また、ASD(自閉スペクトラム症)の方は、言葉での説明よりも、実際に体験した方が理解を深めやすい傾向にあります。そのため、学習効果を高めるには、具体的に体験して学ぶ機会を多く設けてもらうことが必要です。
LD(学習障害)のある人への合理的配慮の例
LD(学習障害)の方は、特定の学習分野に困難を抱えるのが特徴です。しかし、以下のように合理的配慮を求めることで、学習のハードルを下げたり、学校や社会への苦手意識を抑えたりできます。
周囲の理解啓発を図る合理的配慮
LD(学習障害)に必要な支援の第一歩は、友人、教職員、仕事仲間が障害の特徴を正しく理解することです。LD(学習障害)は、ある分野が苦手な原因を周囲から「努力不足」や「怠け」と誤解されがちです。障害に無理解な人にとっては、合理的配慮も単なるわがままやズルのように映るでしょう。このような誤解が積み重なると、自尊感情は深刻に傷つき、学校や社会へ強い苦手意識を抱きかねません。
そのため、LD(学習障害)の方が支援を求める際は、苦手なこと・得意なことは努力だけでは変えられないこともあると関係者全員に理解してもらうことが大切です。また、他の障害にも共通することですが、LD(学習障害)は感覚過敏などの二次的な特徴を有することも少なくありません。そのため、一見LD(学習障害)の特徴とは関係なさそうな配慮が必要になる場合もあることを伝えておきましょう。
災害時の避難配慮
災害時にスムーズに避難できるかは、命にかかわる問題です。LD(学習障害)で文字の読みなどが困難な場合、掲示物や指示内容を即座に理解できないことがあります。そのため、障害の特徴に配慮し、イラストや写真などを活用して避難経路や避難手順を示すなどといった工夫が必要です。口頭で指示や説明を受ける際も、なるべく簡潔で分かりやすい言葉を使ってもらうよう、あらかじめ伝えておくとよいでしょう。
また、感覚過敏がある場合、肌触りや締め付けなどの問題で防災頭巾のような既定の防災グッズの装着が難しいことがあります。こうした場合は、それに代わる代替手段をあらかじめ用意しておきましょう。
学習への合理的配慮
障害の特徴を踏まえて学習できる環境にしておいてもらうことも大切です。LD(学習障害)のある方は文字の読み書きが困難な場合があるため、拡大文字やふりがなを使った資料、音声読み上げ機能の活用など、特別な教材の提供が必要です。ノートを取るのに手間取る場合は、授業の録音や黒板をカメラで撮影する許可を事前に得るとよいでしょう。
ADHD(注意欠如・多動性障害)のある人への合理的配慮の例
ADHD(注意欠如・多動性障害)のある方は、集中力の維持やじっとしていることが難しい特徴があります。以下のような合理的配慮を求めることで、集中しやすくなる環境を作ることが可能になります。
衝動性への合理的配慮
衝動的な行動が目立つ場合は、事前の声かけや環境整備をしてもらうことが有効です。例えば、会議やグループ作業の場面では、「次は〇〇さんの発言を聞きましょう」といった具体的な声かけを事前に行うことで、スムーズに進行しやすくなります。また、注意が散漫になりやすい場合は、机や作業スペースの周りを整理し、目に入る刺激を減らす環境づくりが有効です。
試験や集中力が特に求められる場面では、静かな別室や仕切りのあるスペースで作業できる環境を整えてもらうとよいでしょう。さらに、指示を受ける際には、目を合わせて話してもらう、あるいは簡潔で明確な表現をしてもらうことで、内容をきちんと理解しやすくなります。
トラブルへの合理的配慮
ADHD(注意欠如・多動性障害)のある方は、その衝動性や注意の散漫さから、トラブルが発生しやすい場合があります。忘れ物の多さもその一例です。こうしたトラブルを防ぐためには、具体的な場面を想定し、どのような工夫が必要なのかを周りの人たちと一緒に考えることが大切です。
例えば、スマートフォンのリマインダー機能の活用や、定期的に必要なものをチェックする習慣を取り入れるなど、トラブルを未然に防ぐ仕組みを導入すると効果的です。成功体験がある場合は、それを意識的に継続して習慣化することを目指しましょう。
また、周囲にもADHD(注意欠如・多動性障害)の特徴を説明しておくことで、必要な理解や支援を得て、トラブルの発生を防ぎやすくなります。
多動性への合理的配慮
ADHD(注意欠如・多動性障害)のある方は、多動性の特徴から、長時間じっとしていることが難しい場合があります。これを無理に抑え込むのではなく、適度にエネルギーを発散できる仕組みを取り入れてもらうことが重要です。
具体的には、授業や作業の合間に短時間の休憩や軽い運動を行える時間を確保してもらうことが効果的です。また、身体を動かす業務や役割を割り振ってもらうことで、その特徴を生かすこともできます。
動ける時間と静かに集中する時間のメリハリをつけることで、適度にエネルギーを発散させながら作業効率や学習効果を高めることが期待できます。
まとめ
発達障害のある方が学校や会社で円滑に生活を営むためには、障害の特徴に応じた合理的配慮の提供を受けることが重要です。行政機関だけでなく、事業者にも合理的配慮の提供が法律で義務付けられました。ただし、周囲の理解を得るためには障害の特徴や求める配慮の必要性を丁寧に説明することが重要です。
また、学校や会社の事情も考慮し、双方が納得できるように歩み寄っていく姿勢も大切です。本記事で紹介した事例をヒントに、より良い環境づくりに役立ててください。
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