
発達障害、大学受験は難しい?
大学選びと受験勉強のポイントについて
発達障害があると大学受験は難しいかもしれないと思っていませんか?しかし、障害の特徴に合わせた大学選びのポイントを押さえれば大学受験も大学生活も十分可能です。気になる受験勉強もご自身の障害の特徴に応じた対策を立てれば、効果が期待できます。
そこで、大学選びで押さえておきたい7つのポイントと、発達障害の特徴別に受験勉強のコツについて解説し、併せてご家族が心がけたいサポートについてご紹介します。
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- 発達障害の方の
発達障害がある方に向けて、進学や就職に関する選択肢を症状別にご紹介。また困ったときの相談先となる各種機関についても解説しています。
発達障害がある学生の大学受験は難しい?
発達障害の診断を受ける、またはその疑いがあると、大学受験は不利になる、難しいと心配になるかもしれませんが、現実は必ずしもそうではありません。日本学生支援機構の調査によると、通信生も含め、大学院・大学・短大・高専の全学生3,246,852名中、障害学生は49,672名で、在籍率は約1.53%です。そのうち発達障害の学生は10,288名で、約20%を占めます。さらに、その年に最終学年に在籍していた発達障害のある学生2,166名のうち、約7割の1,548名が卒業まで到っています。
進学先の偏差値を問わず、発達障害があっても大学に進学し、無事卒業できている学生は多いことをまず、知っておきましょう。有名国立大学や難関大学に合格したケースも少なくありません。発達障害の特徴や程度にもよりますが、やり方を工夫すれば大学受験は十分可能です。発達障害のある学生が大学受験を成功させるには、ご自身の障害の特徴に合った大学選びと勉強方法を選択することがとても重要です。
出典:日本学生支援機構|令和 4 年度(2022 年度) 大学、短期大学及び高等専門学校における 障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書
※PDF17-20ページ、80ページ
申請すれば、受験上の配慮が受けられるケースも
発達障害のある方は大学入試のときに試験会場の独特の雰囲気に馴染めない等、受験が困難なケースが見られます。具体的には「周囲に人が多いと気になって落ち着いて問題に集中できない」「試験中に独り言のように答えを言ってしまう」「試験問題を理解するのに時間がかかる」「書くのに時間がかかる」「マークシートを塗りつぶすのが苦手」等です。その場合は受験する前に「受験上の配慮申請書」と所定の様式の診断書、状況報告や意見書等を提出すれば、受験上の配慮を受けられる可能性があります。
平成27年度の大学入試センター試験では発達障害のある受験生に次のような配慮を行っていました。
- 試験時間の延長
- マークシートに代わるチェック解答方式の用意
- 文字を拡大した問題冊子の配布
- 文書による注意事項等の伝達
- 別室での受験
- 試験会場入口までの付添者の同伴
試験時間の延長は1.3倍、リスニング試験は連続方式(音声は連続で流れるが空白時間が長め)と音止め方式(音声ごとに再生を止めて回答)の例がありました。これらの配慮は、大学入学共通テストに名称が変更された後も行われています。
受験する大学選びで押さえておきたい7つのポイント
最初にお伝えしましたが、発達障害のある学生の大学入試では、障害の特徴に合った大学を選ぶことが大切です。大学選びでは特に次の7つのポイントに注目してください。

1.大学へ行く目的に合っているか
発達障害があると、自身を受け入れてもらえるかどうかという視点のみで大学を選びがちですが、大学に行く目的を明確にしておくことが大切です。「学力があることを証明するために大学卒業の資格があったほうが良いから」「大卒だと基本給が高くなるから」等の理由だと大学生活が続かないかもしれません。大学でどのようなことを学ぶのか、将来何をしたいのか、よく考えてみましょう。得意なことやできることは何かを整理して、大学に行く目的を明確にします。
例えば「機械関係の仕事に就きたいから、機械に関する総合的な知識を身に付けたい」等、卒業後の就職を目標にして、それが可能な学校を選ぶ方法があります。就職を目的にすると、大学に行くより専門学校のほうがふさわしいケースも少なくありません。将来はこんなことがしたいという目的があれば、ご両親と話し合ってその目的に適う選択肢を一緒に探してみましょう。
2.入試科目や出題方式が特徴に合っているか
発達障害のある方は、得意なものと苦手なものとの差が極端に大きい傾向にあります。大学受験を成功させるにはご自身の得意・不得意に照らし合わせて、入学試験の科目や配点、出題方式、入試の難易度を確認してみてください。入試科目で得意な科目を選択できる学校がおすすめです。例えば、数学が得意で国語や英語が不得意なら、数学の配点が高い学校、または国語や英語の配点が少ない学校、できれば国語や英語を受験しなくて良い学校を探します。
出題方式を過去問でチェックしておきましょう。集中力が続かない方は答案の最後の見直しをするときに計算ミスや勘違いが多くなりがちです。丁寧な解答が要求される設問の配点ではなく、文脈が合っていれば高く評価される記述式の配点比率が高い入試を選ぶようにしましょう。あとは合格平均点をリサーチして、「どの科目の何の問題で〇点取る」まで具体的にできれば、勉強する内容も決まってきます。
また、入試難易度もチェックが必要です。大学レベルは同じ程度でも、科目の難易度が違うことがあります。学部ごとに問題の傾向が変わる大学と、学部が違っても問題が同じ傾向になる大学の2通りに分かれます。学部ごとに問題の傾向が変わる大学を受験する場合、入試科目や出題形式がご自身と相性の良い学部を選択すれば、合格率を上げることが可能です。
3.進学後にサポートを受けられるか
日本では障害者差別解消法が改正され、2024年4月からすべての大学・短大・高専で、障害のある方への合理的配慮が義務になりました。障害の有無にかかわらず教育を受ける権利を保障するため、大学側は必要に応じて授業や試験等で変更や調整を行わなければなりません。自校で行っている障害のある学生への支援や配慮をホームページに記載している大学もあるので、詳しくチェックしましょう。
例として、講義内容の録音許可や授業内容のPDFファイルでの送付、試験時間やレポート提出日の延長等があります。発達障害のある学生への支援が手厚い大学を見極めるポイントは、支援の窓口があること、障害だけでなく履修や授業、進路、心身の健康等の相談窓口があること、学生一人ひとりに対応できることです。
4.知的発達の遅れに対する支援体制があるか
一般的にはその大学入試に合格する学力があれば、卒業することは可能です。しかし、発達障害の程度や内容によっては、他の学生と協力しながら進めていくグループワーク等で学業を続けるのが困難になるケースがあります。コミュニケーション等の面で支援や配慮が必要だとご自身が感じていれば、志望校に適切な支援制度や体制があるか、配慮はされているかをご確認ください。
5.卒業に必要な条件を満たせるか
中学は義務教育のため、試験の成績が悪くても3年で卒業できます。高校は留年することもありますが、追試等の救済措置で卒業は可能です。大学の場合は卒業するまで4~6年間あり、単位が取れなければ留年します。留年しても学費は発生するので、入学後に卒業の条件を満たせるかを、受験する前に考えておくようにしましょう。
例えば、調べておきたい項目としては以下のようなものが挙げられます。
- 卒業の条件として留学や卒論があるか
- 授業は講義形式とディスカッション形式のどちらが多いか
- グループワークがあるか
- 障害のある学生向けの奨学金制度があるか等
6.大学やその周辺の環境に無理はないか
大学の場所や周辺の環境、キャンパス内や講義を受ける教室の環境が発達障害の特徴と照らし合わせて支障のあるものでないか、チェックすることをおすすめします。交通の不便な場所にあれば、毎日の通学が負担になりますし、にぎやかな繁華街から近いと交通の便は良くなりますが、落ち着いた環境とは言えません。規模が大きなマンモス大学だと、講義を受ける学生が100~200名になるケースもあります。
ADHD(注意欠如・多動性障害)の特徴がある場合、落ち着いて学べる環境がなく、人数が多い大教室等の講義しか選べない学校だと授業に集中しづらくなるので、そのような環境は避けたほうが無難です。
7.一人暮らしが必要か
志望校の場所によっては今住んでいる自宅を出て、一人暮らしをしなければいけないケースもあります。発達障害の特徴や程度によっては、一人暮らしをすると生活習慣が保てなくなる可能性も否定できません。家賃や公共料金の支払いの手続きで苦労し、負担が大きくなって大学に通えなくなる場合も考えられます。実家から志望校が離れている場合は一人暮らしが可能か、現実的に判断することが必要です。
現状で難しければ、一人暮らしの必要がなく、自宅から通える距離の大学を選ぶか、または支援機関等を利用して、一人暮らしができるように自己管理能力を身に付けていく必要があります。
【特徴別】発達障害とうまく向き合う!受験勉強のコツ
発達障害とひと口に言っても、特徴や人によってその状態は様々です。受験勉強ではご自身の特徴に応じた対策を取る必要があります。症状の特徴別に、効果が期待できる勉強法の具体的なアイデアを紹介します。
ASD(自閉スペクトラム症)の特徴が強い場合の勉強法
ASD(自閉スペクトラム症)の特徴は、話したいことを一方的に話したり、感情のコントロールが苦手で極端な行動を取ったり、他者の立場でイメージすることが苦手な点です。不得意な教科の苦手意識が強い傾向にある反面、得意なことや興味のあることには迷わず突き進み、人の目を気にしない強みもあります。決めたことはやり続ける力が強いですが、計画を立てて実行することは苦手としがちであるため、勉強の計画表を作成して、よく目に入る場所に貼っておくと効果的です。やることをチェックリストにすると何をすれば良いかはっきりするので勉強がはかどります。
LD(学習障害)の特徴が強い場合の勉強法
LD(学習障害)の特徴は、知的発達に遅れはないものの、「読む」「書く」「話す」「計算する」等の特定の能力を発揮しづらく、学習に支障をきたしている状態です。例えば漢字の書き取りで鏡文字になる、文章を読むのが遅い、誤字脱字が極端に多いケースが見られます。それ以外で気になる点がなければ、苦手な分野だけ対処することで、LD(学習障害)でも大学受験対策は可能です。
教科書の文章が読みづらければ、音声情報に変換したデータを利用できます。ノートに書き写すのに時間がかかるなら、タブレット入力に切り替えることで対策は可能です。
ADHD(注意欠如・多動性障害)の特徴が強い場合の勉強法
ADHD(注意欠如・多動性障害)の特徴は「集中できない不注意」「じっとしていられない多動性」「考えるより先に動く衝動性」の3つです。それぞれの特徴別に取り入れたい大学受験の勉強法を紹介します。
不注意の傾向が強いなら「集中できる環境をつくる」
不注意の傾向が強いと勉強を始めてもすぐに別のことへ関心が向いてしまう、単調な作業が苦手で計画的な行動が難しい等の支障があります。この場合は勉強に集中できる環境をつくるのが最適です。壁や仕切り板で視線を、イヤーマフで音を遮断する方法があります。短く集中することを繰り返す形で短時間の勉強を重ねるのも効果的です。
多動の傾向が強いなら「動いてもいい勉強法を取り入れる」
多動性の傾向が強いとじっとしていられず、集団で講義を受けることが難しかったり、思考に落ち着きがなく、考えがまとまらなかったりします。この場合は動いても良い勉強法を取り入れると効果的です。身体を動かさないとストレスになり、勉強に集中しづらくなるので、歩き回りながら教科書や単語カードを音読する、黙読する方法を取り入れてみましょう。トランポリンやバランスボール等、身体を動かせる道具を勉強部屋に用意するのもおすすめです。
衝動性がより強いなら「ゲーム性のある勉強法を考える」
衝動性の傾向が強いと考える前に身体が動いてしまうため、勉強中に急に立ち上がったり、歌を歌いだしたりします。物事にのめり込みやすく、長時間ゲームを続けたり、得意科目しか勉強しなかったりするのも特徴です。この場合は、勉強にもゲーム性を取り入れることをおすすめします。クイズ形式で問題を出す方法や、◎分間で何問の問題が解けるかを記録して更新する方法、「◎時になったら◎分間勉強する」と予定を立てて、予定どおりに実行するトレーニングを重ねる方法も有効です。目標を達成したら、好きなデザートが食べられるご褒美を用意する等、楽しみながら勉強できるようにします。
発達障害がある子どもの大学受験に、親ができるサポートは?
発達障害のある学生が大学受験をする際に親として注意したいのは、発達障害であることを強く意識しすぎないことです。「他の子と違う」「何かが欠けている」と思いながら、日々接していると、自己肯定感が失われ、ノイローゼやうつ病を発症するなど、発達障害による二次障害につながりかねません。
発達障害の特性を個性ととらえ、集中しやすい環境を整える等、個人の特性に応じて勉強のサポートを心がけるとよいでしょう。大学受験は一般の受験生でもストレスやプレッシャーがかかります。勉強に疲れていないか、気が張りつめていないか等を気にかけ、メンタルケアを中心にサポートしてはいかがでしょうか。
まとめ
発達障害がある場合の大学選びのポイントや、障害の特徴に応じた受験勉強の方法についてご紹介しました。進学したあとも支援やサポート体制が整っているかは、大学選びの重要なポイントです。発達障害の診断を受けている方でも複数の障害の特徴を持っている場合があります。その場合はどのような傾向が強いのか、あらためて判断できると、その状態に合った大学選びや勉強方法のアイデアに活かせます。
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