障害者手帳がなくても受けられる障害福祉サービス|種類と利用方法を紹介
発達障害、うつ病等の障害や病気によって日常生活に困難を抱えていても「発達障害のグレーゾーンで申請できなかった」「心理的な抵抗がある」といった様々な理由から障害者手帳を持っていない方は少なくありません。しかし、生活していく上で、何らかの困難さ・生きづらさがあるのであれば、精神科にかかる費用負担を軽くできる「自立支援医療(精神通院医療)」をはじめとした各種の障害福祉サービスを利用するのがおすすめです。本記事では、障害者手帳がなくても受けられる、公的な障害福祉サービスについて詳しくご紹介します。
障害者手帳がなくても障害福祉サービスは受けられる可能性がある!
障害福祉サービスとは、何らかの障害や病気があり、日常生活に困難さを抱えている方に対して提供される公的な支援のことです。「障害者手帳を持っていないと支援が受けられないのでは?」と思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。障害者手帳がなくても受けられる様々な公的な障害福祉サービスが存在します。
例えば、精神科・心療内科等への通院にかかる医療費の負担が軽くなる「自立支援医療(精神通院医療)」が挙げられます。障害者手帳がなくても申請が可能で、自治体から必要性が認められれば「受給者証」が発行され、各種の障害福祉サービスを受けられるようになります。ご自身が対象に含まれているようであれば、ぜひこのような制度を活用してください。
受給者証についての詳しい申請方法は、あとからご紹介します。
そもそも障害者手帳ってなに?
障害者手帳とは、「身体障害者手帳」「療育手帳(自治体によっては愛の手帳、緑の手帳等の名称)」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類のことを指します。これらは、いずれも自治体に申請した上で、「心身に一定の障害がある」と認められれば発行されます。その際、 障害の程度によって「等級・度」「種」が示されます。そして、「障害者総合支援法」の法律に基づいて、障害の度合いに応じた障害福祉サービスを受けられます。
これは、日常生活に困難さを抱える人が、より暮らしやすく、より社会参加をしやすくするために定められた制度です。しかし、発達障害のグレーゾーン等で障害者手帳の交付に至らなかった人や、いまだに障害への偏見や誤解等が残っていることなどによって、障害者手帳を持つことに心理的な抵抗があり、あえて申請をしていない人も少なくありません。
障害福祉サービスについて
日本では、「障害者総合支援法」「児童福祉法」という2つの法律で、障害を抱える方が障害福祉サービスを受けられるように定められています。なお、障害者総合支援法の対象が18歳以上なので、子どもも対象に含めるために児童福祉法で補完したという背景があります。
障害福祉サービスを利用する場合の自己負担額は、基本的に1割です。残りの9割は国や自治体が負担します。また、世帯の所得によって月の上限金額も変わります。ただし、交通費や食費等はすべて実費なので、利用する場合は注意が必要です。
次の項目からは発達障害をはじめ、何らかの障害や病気を抱えている人であれば、障害者手帳がなくても利用できるサービスの詳細についてご紹介します。
障害者手帳がなくても受けられる障害福祉支援の種類は?
障害者手帳を持っていることが必須条件ではない障害福祉サービスにはいくつか種類があり、代表的なものに下記の支援・制度があります。
- 障害児通所支援
- 障害児入所支援
- 自立支援医療制度
- 日中一時支援
それぞれの詳細について取り上げます。
障害児通所支援
障害児通所支援は、障害があったり発達に心配があったりする人が対象で、施設に通って支援(療育)を受ける制度です。複数種類がありますが、その中でも、「発達障害のグレーゾーン」かつ「障害者手帳を持っていない18歳未満」が対象となるのは、次の2種類です。
児童発達支援
児童発達支援は、未就学児を対象とした、それぞれの障害に合わせた発達支援を行う障害福祉サービスです。個別または集団で、日常生活の基本的なトレーニング、対人関係の構築スキルをはじめとする集団生活への適応訓練等の療育を行います。医師による診断、障害者手帳の取得は必要ありません。自治体の保健センター、保健所、医師等から療育の必要性を認められたら、自治体に申請の上、利用できます。
放課後等デイサービス
放課後等デイサービスは、小学校~高校(6歳から18歳まで)に通学中の人を対象とした障害福祉サービスです。放課後や長期休暇中に、学校と連携・協働しながら継続的に活動を行います。提供される内容は、自立した日常生活を営むための訓練、社会交流を行う機会の提供等です。
障害児入所支援
障害児入所支援は、施設へ入所して、必要な支援を受ける制度です。長期に渡って入所する場合だけでなく、一定期間のみ入所するショートステイ(短期入所)も選べます。対象は身体障害、知的障害、精神障害、発達障害のある18歳未満の人です。児童相談所や医師等から必要と判断された上で入所できます。
入所する施設は、大きく分けて「福祉型障害児入所施設」「医療型障害児入所施設」の2種類です。どちらも、子どもの保護、年齢に応じた適切な日常生活のトレーニング等を提供します。それに加えて、医療型は専門的な治療、リハビリテーション等も行います。したがって、対象となる児童に対して医療を提供する必要があるかによって、どちらに入所するかが決まるのが大きなポイントです。
また、いずれの施設も将来的に成人としての生活へ移行できるよう、15歳頃からグループホームへの移行支援等も行っています。18歳での移行が適切でないと判断された場合等は、満20歳まで利用可能です。
自立支援医療制度
自立支援医療制度は、心身の障害を取り除いたり軽くしたりするために医療費の自己負担分を軽減する制度です。薬によっては薬価が高く、支払う医療費がかさむと感じている方などにとっては、出費が少なくなり負担を減らすことにつながります。
この制度には大きく3種類ありますが、発達障害の人が利用できるのは「精神通院医療」です。発達障害をはじめ、うつ病、双極性感情障害(躁うつ病)、統合失調症、ASD(自閉スペクトラム症)等、広範な精神疾患が対象で、年齢は問いません。また、「発達障害による生きづらさが原因で、うつ病を発症してしまった」という場合等でも適用されます。
多くの場合、自己負担額は1割になります。ただし対象となるのは、あらかじめご自身で選び、申請した医療機関に支払う費用のみです。医療機関以外のカウンセリング、入院医療、精神障害と関係のない疾患(インフルエンザの治療等)の医療費は対象外となります。なお、1年に1度の更新が必要です。
日中一時支援
日中一時支援事業は地域生活支援事業の1つで、障害のある児童・大人を介護する家族が何らかの理由で一時的に介護するのが難しい場合、その家族に代わって施設がケアを提供する制度です。
自治体によって名称が異なる場合もありますが、本質は変わりません。知的障害・精神障害の子どもの場合は、障害者手帳がなくても、医師の判断によって利用可能です。
家族の就労が理由の場合は「タイムケア」、タイムケア以外(休息等)の場合は「レスパイト」と呼ばれており、基本的に月のサービス支給料が異なります。
障害福祉支援サービスの利用で必要な「受給者証」の申請方法は?
これまで紹介した障害福祉サービスは、自治体に「受給者証」の交付を申請し、受理・発行してもらうことで利用できます。なお、交付申請の窓口は自治体によって名称が異なり、必要な書類等も異なります。そのため、あらかじめお住まいの自治体に、申請時になにが必要なのかを尋ねておくと手続きがスムーズです。一般的な申請方法は、次のとおりです。
障害児通所・入所受給者証の申請方法
障害児通所支援を利用するための申請は、居住している自治体の「福祉相談窓口」「障害児支援事業」等で行います。
〇必要書類(一例)
- マイナンバーカード(親・子)
- 支援の必要性が分かる書類(医師の意見書等)
- 所得状況が分かる書類
- 学校への在籍が確認できる書類(放課後等デイサービスの場合)
障害児入所支援の場合、申請窓口は居住している自治体の「児童相談センター」「児童相談所」「こども家庭センター」等です。通所支援とは異なるので注意してください。
〇必要書類(一例)
- 入所給付費申請書
- マイナンバーカード(親・子)
- 子どもの健康保険証
- 医師の診断書、意見書、自立支援医療受給者証
自立支援医療受給者証の申請方法
自立支援医療制度の受給者証は、居住している自治体の「障害福祉課」「保健福祉課」等の窓口で交付申請を行います。
〇必要書類(一例)
- 申請書
- 医師の診断書や意見書
- 所得状況が確認できる書類
- 健康保険証
医師による診断書等は、まずかかりつけ医に依頼しましょう。なお、診断書の作成は自費で、作成にまで数日かかることもあります。時間に余裕を持って依頼したほうがいいでしょう。
日中一時支援受給者証の申請方法
日中一時支援の申請先は、居住している自治体の「障害福祉課」「保健福祉課」等が担当していることが多いです。
〇必要書類(一例)
- すでに交付された受給者証(持っている場合のみ)
- 医師の診断書・意見書(自治体によって異なる)
- 勤務先状況(自治体によって異なる)
- 印鑑
まとめ
取り上げた障害福祉サービスは、いずれも申請にするにあたって障害者手帳を持っているかどうかは問われません。医師や保健センター等が「支援が必要である」と判断すれば、受給者証を交付してもらえます。
そのため、「発達障害のグレーゾーンだが、以前に障害者手帳を申請したが取得できなかった」「心理的に障害者手帳を持つのをためらってしまう」等、何らかの理由で障害者手帳を持っていない方も、必要に応じて各自治体の窓口へ相談してください。そうすることで、金銭的・心理的な負担の軽減にもなりますし、様々な障害福祉サービスの活用がご本人の困難さ・生きづらさを楽にできるきっかけになるかもしれません。